水底の顔
田中 文雄父の一周忌が済んだ夏の盛りのある日、中学二年生の須す藤どう昭あき彦ひこは、母と共に、滝たき上がみ市の父の旧家に越してきた。
東京からの東北縦貫道が混んだため、コンテナカーが到着したときは、すでに夕陽が古い木造二階建ての瓦かわら屋根の半分を赤く染めていた。ヒグラシの声が丈たけの高い木立を覆っている。
風は凪なぎ、庭から東側の眼下に広がった田畑と遠い森陰、そしてパノラマの中央を横一文字に走る東北新幹線の高架を、靄もやが墨絵のように暈ぼかし始めていた。わずかに視界の右端にきらめいて見えるのは川かわ面もであろうか――。
母の典子は、運送会社の男たちとともに玄関からすでに家の中に入っている。昭彦は玄関右手の庭木戸をとおって直接、庭に出たのであった。
年:
2016
出版社:
アドレナライズ
语言:
japanese
文件:
EPUB, 732 KB
IPFS:
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japanese, 2016